前提とか
を級多様体、とする。この写像はから派生した空間の元とから派生した空間の元との対応を誘導することがあって、側からへの誘導を押し出し、その逆を引き戻しとよぶ。の押し出しは、の引き戻しはのようにかく。
はとりあえず級を仮定しておく。微分同相まであると定義した押し出し/引き戻しの逆写像がとれることがあって、それも引き戻し/押し出しと呼んでいいっぽい。あと、出てくる関数とかベクトル場とかは基本的に級を仮定する。
関数の引き戻し
押し出し/引き戻しのもっとも簡単な例は多様体上の関数の引き戻しである。つまり、上の関数 (上の級関数全体の空間の元ともいえる)
を引き戻しての元
を定義する。やり方は明らかで、に対して
とすればよい。
ベクトルの押し出し
つぎに接ベクトルの押し出し、つまりの誘導する自然な写像 を考える。このためにまず接ベクトルの定義を思い出すと、次が成り立つ:
について曲線が存在して、任意のに対し
この曲線はでうつして上の曲線にできるから、これを使ってでの接ベクトルが定義できる:
右辺はを上の関数とみることでとできる。
、各に対し
$$\displaystyle (\phi_* v)(g) \equiv v(\phi^* g)$$
これを使ってベクトル場の押し出しも定義したいところだが、
のように定義しようとすると、が単射じゃないと一つのに対して二つのベクトルが割り当てられるかもしれないので定義できず、全射じゃないと以外の点に何のベクトルを割り当てていいかわからないので、押し出しは全単射(微分同相?)でないと定義できない。そこで「-関係」という概念を定義する。
とが-関係を持つとは、次を満たすことである:
任意のについて、
$$\displaystyle Y_{\phi(p)} = \phi_*(X_{p})$$
このとき、
ここで、ベクトル場は上の関数に作用して上の関数を作ること
、 に対し、のへの作用を次で定める:
$$ \displaystyle (X(f))(p) \equiv X_p(f)$$
を思い出すと、
とかけるから、
とが-関係を持つとき、
$$ \displaystyle \phi^*(Y(g)) = X(\phi^*g) $$
たぶんこれは-関係の定義そのものと言っていい。
一形式の引き戻し
接ベクトルの押し出しが定義できれば、の像の範囲内では一形式(余接ベクトル)の引き戻しが自然に定義できる。つまりに対し、が定義できる。
について、各に対し
$$ \displaystyle (\phi^*\beta)(v) \equiv \beta(\phi_*v) $$
ベクトルのときと違って、これはそのまま一次微分形式の引き戻しの定義にできる。
接ベクトルの代わりにベクトル場を使った式をつくろうとすると、ベクトル場の押し出しに相当するものが必要になる。とが-関係を持つとすると式が作れて、
さっきと同じように一次微分形式がベクトル場に作用して上の関数を作ること
を使うと、より次が成り立つ。
微分同相写像による押し出し・引き戻し
が微分同相写像のときには、ベクトル場の押し出しが定義できる。さらに、逆写像がここまでで定義した引き戻し/押し出しと逆方向の写像を誘導する。これを確認していく。ここからはは微分同相写像とする。
ベクトル場の押し出し
ベクトル場の押し出しは、接ベクトルの押し出しを使って
について、
$$ \displaystyle (\phi_*X)_{q} \equiv \phi_*(X_{\phi^{-1}(q)}) $$
とすればは全体で定義される。別の言い方をすると、はと-関係にある唯一のベクトル場である。当然次が成り立つ。
$$ \displaystyle \phi^*( (\phi_*X)(g) ) = X(\phi^*g) $$ に対し$$ \displaystyle (\phi^*\pi)(X) = \phi^*(\pi(\phi_*X)) $$
逆写像が誘導する押し出し・引き戻し
ここまでで定義した引き戻し/押し出しについて、によるN側からM側への引き戻し/押し出しを考えることができる。この写像はの引き戻し/押し出しの逆写像になっている。これをそれぞれの押し出し/引き戻しとし、元から定義されているものと同様、で表す。つまり、
をから派生した空間(、など)とする。
引き戻しが定義されているとき、の写像の意味で$$ \displaystyle (\phi^{-1})^* = (\phi^{*})^{-1} $$
が成り立ち、これをと書く。
同様に、押し出しが定義されているとき、の写像の意味で$$ \displaystyle (\phi^{-1})_* = (\phi_{*})^{-1} $$
が成り立ち、これをと書く。
これを使えば引き戻し・押し出しの操作はかなり自由に行えて、例えば
$$ \displaystyle \phi^*( (\phi_*X)(g) ) = X(\phi^*g) $$
$$ \displaystyle (\phi^*\pi)(X) = \phi^*(\pi(\phi_*X)) $$
は
$$ \displaystyle \phi^*(Y(g)) = (\phi^*Y)(\phi^*g) $$
$$ \displaystyle (\phi_*X)(\phi_*f) = \phi_*(X(f)) $$
$$ \displaystyle (\phi^*\pi)(\phi^*Y) = \phi^*(\pi(Y)) $$
$$ \displaystyle \phi_*(\omega(X)) = (\phi_*\omega)(\phi_*X) $$
といった簡単な形にかける。